歌劇「ラオールの王」(1)

第一幕第二場より 第一幕第二場より(2)

第一幕 第一場より
ラオールにある神インドゥラの寺院の前で大勢の人々が押し寄せて祈りを捧げています。
群集
強力な力を持ちたもう神インドゥラよ、我等を救いたまえ!全能なる神インドゥラよ、我等を救いたまえ!
間もなくイスラム教徒がラオールに侵攻して来るかも知れません!我等を救いたもう神インドゥラよ、敵は誰にも止められない波の様にして押し寄せてくるのです!
敵の炎のごとく死の侵略は野原や町中の全ての物を破壊しようとします。
どうかイスラム教君主マフモウド率いる恐ろしい敵からまだ征服されていない人々をお導き下さい!どうか我々をお救い下さい!
ティムール
神インドゥラよ、敵の進撃での恐怖で貴方様を満たされるのならば、王が戦争の命令を出さねばなりませぬ!どうか、お慰め下さい!不滅なものになる為に王の武器で我々をお守りください!
群集
強力なインドゥラ、我々を救いたまえ!
ティムール
インドゥラは救助の神である。あらゆる全ての声で嘆願させて下さるであろう。


ティムールは案内されて入って来たシンディアを招き入れます。
シンディア
尋ねなあかん事があるんや。何か嫉妬で汚れた崖っぷちみたいや。俺の愛情は今から生死の間で決定的な役割を果たすんや!
ティムールがおるやんか!聖職者らもおるな。
ティムール
我々の君主の大臣シンディアよ、遂に貴方をご招待する事になりました。残酷な敵であるマフモウドに与える処罰に関する情報をもたらせて下さった事でしょうなぁ。
シンディア
いや、俺は・・・実はその事とは違う事であんたに知らさんなん事があるんや。俺はこの寺院におるシータに会いたいんや。聖職者の兄貴の娘やから俺の子として見なしたいのやけどなぁ・・・だから、あいつを連れて行こうと思てここへ来たんや。
ティムール
貴方は一体どういうおつもりなのか。彼女は神に仕えている身なのですぞ!
シンディア
今からあいつをここの誓約から解放するつもりや!
ティムール
その権利を持つのは王様だけですぞ!
シンディア
ふん、王も必要やったらこの俺にシータを与えてくれるのに決まっとるんや!俺が愛するシータ。まともに保護されへんシータ。
俺の言う通りにせんかい!こらー!
ティムール
この様に話し掛けても良いのは王様だけですぞ!今の言葉、取り消しなされ!
シンディア
俺はなぁ、聖職者どもと話す時なんかに強要されよるんや!俺は警戒や神の怒りなんか何ともないんや!
ティムール
あぁ、不信心な尼僧が寺院を侮辱するという悪意のある噂が流れる事になれば彼女は苦しむ事になるのですぞ!
シンディア
違う!ティムール!あいつは絶対に無罪に決まっとる!当たり前や!ティムールは寺院が汚される、あいつが苦しむとかばっかり言ってるけどなぁ、俺はあいつを無罪に出来るんや!あいつの心は俺を避けられへんのや!あいつの無罪を絶対に信じるんや!俺のささやかな希望は絶対に失望させられへんのや!
(中略)
ティムール
彼女に会えばよい。独りでこの女性の事を判断すればよい。
シンディア
もし、万が一あいつが有罪やったら・・・あとはあんたに任せるわ。
ティムール
貴方が私に合図をして下さったらすぐにでも来ますからなぁ。
(中略)
シンディア
もし寺院が汚されたら・・・その時は・・・あいつがもし有罪やったら、あんたに任せるわ!
ティムール
彼女が実際に誓約を破っているようであれば・・・そうだ!私は無慈悲に彼女を罰するぞ!

シンディアはティムールに続いて寺院の中の方へ入って行きます。

第一幕 第二場より
シンディアは尼僧達と一緒に祈りを捧げているシータに会い自分と共に来る様に言います。
尼僧達
臆病な魂よ、行きなさい。恐れる事はありません。神は貴方を導き支援して下さいます。何故震えているのです?信頼なさい。神は味方なのです。愛らしい子供よ、行きましょう。恐れる事はありません。信頼なさい。神は味方です。
シンディア
シータ、側に来い!
シータ
あぁ、シンディア様。敬愛する父の精神が貴方をお導きしたのですね。
尼僧達
臆病な魂よ、行きなさい。恐れる事はありません。神は貴方を導き支援して下さいます。

尼僧達は去り、シンディアとシータの2人きりになります。
シンディア
シータ、世間から隔離されたお前の生活を変えられる日がやっと来たぞ。俺の所にお前の夫がおるんや!
シータ
私の君主様、ここで過ごしてはなりませんか?
シンディア
この寺院はなぁ、長い間皆が羨む様な世間の目から成長したお前の美しさを隠してしもたんや。(中略)今日はお前の長い妄想の最後の日や!シータ、今から来い!
シータ
貴方様と・・・?
シンディア
何や、嫌なんか?お前の隔離された様な生活をやっと変えられるチャンスの日なんやぞ!
シータ
あぁ、未来の甘い神秘を私の為に啓示して下さるのですね?ささやかな愛らしい光景、それが私に未来の甘い神秘を啓示して下さるのですね?

シンディアは横目でジッとシータを見詰めます。
シンディア
こいつの無罪は俺を安心させてくれるんや!喜びはこいつの顔や!愉快に輝いとるんや、シータ!俺と魂を理解してきたな。やったぜ!俺はお前の事を良く知ってるんや。俺はこれまで熱望しとった夢の中の愛を見つけるぞー!


シンディアのこの言葉を聞いたシータは動揺します。
シータ
あのお方・・・偉大な神・・・。
シンディア
さぁ、来い!俺の愛しい子供!
シータ
ここに残ります!(中略)この神聖な神が祭られた寺院の隠された所に残る事をお許しください!お願いします!

シンディアはなかなか言う事を聞かないシータに対して徐々に苛立ち始めます。

シンディア
おい!お前の頭はおかしい事になって来とるぞ!本間の事や!お前の恥ずべき秘密はなぁ、この俺に報告されたんや!今から俺がお前の疑わしい様な関係のあるやつは全部取り消したるさかいに!聖職者の祭服姿で恋人がこれから毎晩お前の所に来るからなぁ!
シータ
私を非難なさる前にせめて哀れみをお寄せ下さい!私の君主様、どうか私の言う事をお聞き下さいませ!祭典の日の夜の事でした。私はここで独りで祈りを捧げておりました。すると突然、足音が聞えたのです。すると誇り高き若者が祭壇の前に立っていました。あのお方は私に話し掛けましたが、私はその声で震えていたのです。私にはあのお方を見ない勇気がありました。その後、その幻影が人間であるのか、神であるのかが私が見極める事が出来る様になった頃には、あのお方は姿を消されたのです。
シンディア
2回以上そいつを見たんか?
シータ
そのお方は何時も夜に同じ場所へ来られて私に話し掛けて下さるのです。愛情を感じるのです。しかし、あの方の手が私に触れる事はありません。そしてあのお方は優しく囁いて次の日に再び現れるのです。
シンディア
でもなぁ・・・そんな人間か神か、もしかしたら狂人かも知れんような奴。そいつはお前の召還で来るんか?
シータ
私が祭壇の前で晩祷を歌ったら・・・。
シンディア
晩祷をか?
シータ
あの方が現れるのが見えるのです。
シンディア
そいつに会うんか?
シータ
あの方に会います。
シンディア
妄想はお前の目を偽ったんや!俺がこんな妄想からお前を解放したろ!お前自身からお前を救うのや!どうせお前が見た幻影は生命なんか無いのに決まっとるやろけど、俺は生きとるんや!お前の事、愛しとるのや!さぁ、来い!
シータ
あぁ、どうかお慈悲を!ここに残らせて下さい!
(中略)
あぁ、何故私の生活を覆すのですか?どうかお慈悲を!私はこれまで幸せでした!何故貴方様は私の大事な静けさを奪い去ろうとなさるのですか?悲しいです!何故私から甘い夢を奪い去って一瞬にして残酷に破壊する様な事をなさろうとするのですか?悲しいです!私は幸せだったのです!何故私の生活を覆す様な事をなさろうとするのですか?
シンディア
お前の美しさの為の暮らしを与えるつもりなんや!
シータ
あぁ、ここに残らせて下さい!

シンディアは次第にシータを脅し始めます。
シンディア
そないしてこの俺の心を恥と不面目で踏みにじる気かぁーーー!えぇ、こらー!
シータ
もう一度お慈悲を求めます!どうか、ここに残らせて下さいませ!どうか私に哀れみをお寄せ下さいませ!ここに残らせて下さい!
シンディア
俺はお前の為の暮らしを与えたろうと思とるんや!来んかい!
シータ
決して貴方には付いて行きません!
シンディア
俺が解決したんや!絶対に言う事きかすぞーーー!
シータ
いいえ!
シンディア
お前の涙なんか・・・どうせ悪意のある泣き脅しやないかぁーーー!こらー!
シータ
いいえ!
シンディア
あぁ、もうええ加減にせぇよぉー!
シータ
私は貴方の激怒には決して屈しません!
シンディア
来い!俺の言う通りにせんかい!こらー!
シータ
あぁ、私は決して貴方の仰る通りには致しません!
シンディア
後で仕返ししたるからなぁ!覚えとけよぉ!お前がそないさせたんや!

シンディアは頭に来てシータを窮地に陥れる為に寺院の神聖なゴングを猛烈に打ち鳴らし始めます。
その音を聞いた司祭長ティムールをはじめ、大勢の聖職者や人々が入って来ます。そしてティムールはシータが男に愛情を持っていたという事で、激しく彼女を非難し、そこにいる全員がシータの死を要求します。
ティムール
聖職者達よ!よく聞くが良い!この女を見ろ!この者は冒涜で不名誉な人間への愛情に返報したのだ!尼僧としての誓約を裏切り、魂を汚したのだ!私は神によるこの者に対する復讐を誓う!神の復讐だ!
全員
この女を殺せー!
ティムール
この女を殺すのだー!
全員
この女を殺せーーー!こいつに死を与えよぉーーー!
ティムール
この者は冒涜的な不名誉な人間への報い、不愉快な愛情を持っている!この者に死を!
全員
そうだ!この女を殺せー!こいつに死を与えよぉーーー!

第一幕 第二場より(パート2)
その場にいる全員がシータの死を要求する中、シータはティムールに自らの潔白を主張します。
シータ
あぁ、ティムール様!私が罪を犯したとは・・・。私を拒絶なさるとは・・・。どうかお慈悲を!私は神に全てを捧げております。神々の名も私の中で非難される事となるのです。処女の清浄の中で私は捧げたのです。そしてこの永遠の致命的な美の為に私は今から死んでいくのです。この様な致命的な美で私自身を守る事が出来ずに無駄に求められなければならない場合は無実を信じる屈辱を私にお与え下さいませ!あぁ、ティムール様!私は誓約を破る様な事は全く致しておりません!

寺院の中から尼僧達の祈る声が聞えてきます。シンディアをはじめ、全員はシータに対し、その祈りに続いて彼女自身も声を出して祈るように命じます。しかしシータは、その事で自分の前に現れる男性の幻影をおびき出して彼が罰せられるのでは・・・と感じ、拒絶します。
尼僧達
夜空を御覧なさい!姉妹よ・・・さぁ、お祈り致しましょう!星は私達の頭上で銀色に輝く聖なる光を流すのです。威厳なる天の神インドゥラよ、私達は汝を崇拝致します!
シンディア
晩祷かぁ・・・。
シータ
お祈り致します。
シンディア
奇跡かぁ・・・。お前が潔白で神がお前を守ってくれるとでも思とるんやったら跪いて祈れ!
シータ
何と仰っているのですか?
シンディア
この神殿で今から祈りを捧げるんやったら、もう一回お前の声を出して祈るんや!
シータ
今から祈るのですか?
シンディア
従わんかい!
シータ
あぁ、シンディア様!貴方の心は一体どうなってらっしゃるのですか・・・?!
シンディア
ふん、お前の恋人か何か知らんけど・・・見つけ出して罰っしたるからなぁ!!!アホがぁ!
シータ
あぁ、神よ!
シンディア
跪いて祈らんかい!
全員
さぁ、跪いて祈りなさい!
シータ
出来ません!私を殺して下さい!殺して生活を奪い去って下さいませ!私はあのお方を裏切る様な事は決して致しません!あの神聖で神秘的な天地に守られた神聖さが表れたあのお方を裏切る様な事は絶対に致しません!!!

全員
さぁ、跪いて祈りなさい!
シータ

あぁーーー!


突然王アリムが召使のカレドを伴って登場します。

アリム
いや!シータは私のものだ!!!彼女は絶対に生きる!!!

王の突然の登場にティムール達は驚き、シンディアは悔しさを露にします。
シンディア
王が・・・、王がこいつの恋人やったんかぁ、クソー!!!
全員
王様が・・・
シータ
王様だったのですか・・・

アリムはシータに対して自分の愛を打ち明け、シータは驚きながらも王アリムからの愛の告白を受け入れていきます。
アリム
来てくれ!私は君に意志を課さない。君の純粋な心が私の愛を受け入れてくれるまでは忍耐で待つ事が出来る!どの様な贈り物もその事に比べれば軽蔑に等しい。
シータ
あぁ、私の魂が記憶出来ない程の感情で満たされております。・・・女としての希望として貴方様に従う事を誓います。

カレド
シータ、さぁ、頭を上げて!愛の喜びの為の君の魂を約束してくれるよ!
シンディア
クソー、何てこったい!こいつの恋人が王やったとは・・・王の存在が・・・俺は・・・自分の存在が・・・クソー!
ティムール
あぁ、王様の存在が・・・この方の存在が・・・
(中略)我々の誓約が覆されてしまった・・・。
全員
全ての者達の力は・・・王様に寄って生み出される。
シータ
恐れで私に満たされた宣告・・・。
アリム
潔白だけが歪められたのならば、公正なる正義の剣で解決せねばならぬ。
カレド
この不正な宣告は絶対に王様の言葉通りになるよ!
聖職者達
王様の存在だけで我々の誓約が覆されてしまった!
シータ
このお方は私に再び希望を与えて下さいます。しかし、恐れ多い事にこのお方は王様なのです。
アリム
この不正な宣告は私の言葉で破棄する!

(中略)

この様な男女の愛欲で神殿の誓約が破られた事にキレたティムールは王アリムにトルコの軍との戦いを命じます。そしてシータの慕っていた相手がアリムであるという事を知ったシンディアもブチキレして、アリムを陥れようと企みます。

ティムール
王様、この様な愛欲は罪になるのですぞ!神が改心を要求されております!
アリム
話せ!それならお前も理解できるだろう。
ティムール
イスラム君主マフモウドは我等の神と戦う為にこの場所へ攻めて来ます。我々の土地を脅かす為に攻めて来るのです。マホメットの兵士達が攻めて来たら、止めるには王様の力が必要となるのです。それで兵士達を招集し、砂漠へ行進して攻めて行くのです。貴方の力で一握りの煙の様に敵を分散させて行くのです!
聖職者達
さぁ、戦う兵士達を招集して下さい!
全員
砂漠へ行進だぁ!!!
アリム
聖職者よ、私はお前達の誓約の様に兵士達を招集するのを待たぬ!(中略)
お前達の安全性や私の名誉はどちらも私にとっては大事な事だ!明日、私の何千もの大部隊はそこへ出向かねばならぬ!明日、私の部隊は平原上に流れるだろう!・・・(シータに向かって)私と共に来てくれないか、シータ。
シータ
貴方様は私の君主です。
アリム(ティムールに)
インドゥラ、どうか私をご支援下さい!そして貴方の手で私を祝福して下さい!
シンディア
アリムめぇ・・・、俺はお前に目つけたからなぁ!お前の時間はもうしまいや!アホがぁ。シータは俺のもんになるんや!
ティムール
さぁ、行きなされ。そうすれば神は貴方をお許し下さいますぞ。
(中略)

アリム達はいよいよ戦いへ出陣しようとします。

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